技術駆動都市ヨコハマ2030

The tech driven city YOKOHAMA 2030

version: 2.0
published: 2021-08-08

はじめに

「果なく栄えて行くらんみ代を 飾る宝も入りくる港」

(「宝」ともいうべき様々な人や物事が入ってくる、この「港」横浜は、これからも限りなく発展していくでしょう。)

これは、明治の文豪森鴎外の作詞による『横浜市歌』の最後のフレーズです。横浜市は開港後150年余り、まさにこの通りの発展をとげており、直近(2021年6月)の人口が約378万人と、全国の市区町村の中でNo1の座を占めています。

しかし、2000年代に入り、日本は大きな、かつ急激な変化のうねりにのみこまれ続けています。明治の近代化以降ほぼ一貫して拡大してきた日本の人口もついに減少に転じた中、グローバル化によって国内外での都市間競争はますます激しさを増しています。残念ながら、横浜市も2010年代以降はいまの働き手である生産年齢人口や、未来をつくっていく年少人口が毎年減少し続けています

2020年には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中の国・地域で蔓延し、非常に多くの方々が感染、発症したり、亡くなったりしました。この100年に一度ともいうべき世界的大流行(パンデミック)は、「ニューノーマル」といわれる、人々の日々の暮らし方や働き方といったライフスタイルや社会の大きな変化を引き起こしたとされています。今後も、日本を含む世界各地で、このようなパンデミックをはじめ、気候変動がもたらす大規模災害、突発的な紛争やサイバー攻撃を含む深刻なテロなどの、平穏な日常を一変させるような出来事が、相当の頻度で発生すると予測されています。新型コロナ禍は、従前から提唱されていたVUCA※に、世界が本格的に突入した号砲を鳴らす出来事だといえるでしょう。

※Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の略。読みはブーカ。予測が困難であることを前提とした共通認識・時代といった意味

ヨコハマの未来像

2030年のヨコハマで、みなさんはどのように働き、どのように暮らしていますか。ヨコハマは市民に愛される街でありつづけることはできているでしょうか。また、世界に誇れる街となっているでしょうか。

現代社会はさまざまな課題が山積しています。いまより快適で豊かな暮らしを実現するためには、そうした課題を解決していくことが必要ですが、そのためにはデジタル技術の活用が鍵となります。わたしたちが思い描く2030年のヨコハマでは、あらゆる分野でデジタル技術の活用が進んでいます。そして、デジタル技術に支えられながら、地域に根ざした一人一人の市民がそれぞれの分野で能力を活かし躍動することで、都市をアップデートし続けていることと思います。

このような、デジタル技術を所与、前提として空気のようにつかいこなす、現代型のまちづくりを進めていくことで、冒頭の鴎外の歌詞がこれからの100年も歌い継がれていくようにしていきます。

1.デジタル技術を活用して市民生活の質を向上させます

デジタル技術は上手に活用することで、少ない投資で大きな効果を見込めます。

すべての市民がより快適に、健康に暮らすことができるように、人々が持てる才能を発揮し活躍できるように、活力に満ち溢れたまちなみや美しい景観をつくるため、新たな文化を創造するため、世界の都市の中で横浜が輝くために必要とされるすべてを実現するためにデジタル技術を積極的に活用していきます。

1.1.すべてのあらゆる人が安心して健康に暮らせるまちを目指します

現代社会の人々の生活様式はとても多様です。横浜市においても例外ではなく、子育て中の親から高齢者、病気を抱えながら生活している人、障がい者、外国籍の人も大勢暮らしています。また、その働き方も様々です。

こうした人々が快適に安心して健康にくらせるまちづくりをデジタル技術やデータを活用しながら進めていきます。

1.1.1.デジタル技術を活用した情報のバリアフリー・ユニバーサルデザインを進めます

情報サービスの多言語化などバリアフリー・ユニバーサルデザインを進め、赤ちゃんからシニア、障がいを持つ方、外国籍の方、すべての市民が必要とする情報をデジタルならではの手法を用いて充実させていきます。 また、行政の所有する膨大なデータの100%オープンデータ化を目指すとともに、民間との共創型による情報発信により、視覚化された効果的な情報発信に努めます。

1.1.2.データドリブンな対話と合意形成を広めていきます

行政から公開されたオープンデータなどのデータを活用し、様々なセクターの人たちが客観的なデータに基づいた政策の立案や、利用者視点の行政サービスをともに考えることができる環境を作ります。

行政職員がデータ活用やデザイン思考を用いたサービス設計を理解し、そうした環境をファシリテートできる人材となれるよう、市内大学等の教育機関と連携し、行政職員に向けたデータサイエンスやサービスデザインの教育を実施します。

1.1.3.ゆりかごから墓場まで、各ライフステージでのQOLを向上させます

デジタル技術を活用し、常に不安と隣り合わせの子育て中の保護者に、子育てに必要な情報や地域のサポート情報を確実に届け、周囲の協力者との連携を高めることで地域ぐるみの子育て環境を創り出します。

GIGAスクールによるスマート教育の推進によって、デジタル技術の力を借りて個々の児童生徒に寄り添いながら「集める・まとめる・伝える」という生きる上で必要な情報活用スキルを幼少期より育みます。

テレワークをはじめとする、デジタル技術を用いた柔軟な働き方の普及を後押しすることで、市民のワークライフバランスの充実を実現します。

医療機関が保持する患者に関する各種情報を個人に帰属させ、機関を横断した情報連携を実現、効率的に医療サービスをうけられるようにします。研究機関等とも連携し、医療データの収集と分析を進め、市民の健康増進に対して有益な制度やサービスの実現に努めます。

1.2.持続可能な都市でありつづけます

デジタル技術を背景とするマッチングやシェアリングの手法を導入し、ヒトやモノといった既存の地域資源を上手に活用することで、従来よりもコストを抑えながら暮らしの充足を図っていきます。データや科学にもとづいたアプローチで、環境の改善、地域内での購買行動や移動の質を向上させます。また、地域を支えるコミュニティの活動をデジタル技術でエンパワーメントして循環型の地域経済の発展と、環境の持続可能性の維持を両立させていきます。

1.2.1.地域コミュニティにデジタル技術で活力をもたらします

テクノロジーが進歩した現代においても、また、これからも、地域を支える自治会等の地域コミュニティの役割はとても重要です。そうしたコミュニティ活動において、デジタル技術を活用した情報発信や情報共有、申請手続きの簡便化などを進めます。

一人暮らしの高齢者が安心して暮らせるように、他者とのふれあい、連絡、みまもり、買い物、医療、移動、これらの課題に対して、企業やNPO等非営利組織とも連携しながら、デジタル技術を活用した解決を図り、世代を超えた対話・つながりによる社会的孤立を防ぐためのコミュニティの紡ぎ直しを目指します。

1.2.2.データや科学に基づいた都市マネジメントをおこないます

人々の生活がより快適になるように、既存の統計データに加え、IoTを使ったセンシング技術やAIを活用した分析技術、AR・VRを活用したシミュレーション技術を活用し、データや科学的根拠に基づいた環境改善を進めていきます。

観光客に対するインターネット接続環境を充実させるとともに、地域情報の提供を行い、横浜の魅力を発信し、地域内での回遊を促すような取組を進めます。

1.2.3.ゼロカーボンヨコハマを達成します

横浜は、高度経済成長時代の人口急増のなかで、緑や農地などの環境やコミュニティなど、守るべきものは守りながら、伸ばすべきものは伸ばすという都市の最適化をおこなってきた世界に誇るべき歴史を持つ都市です。近年でも、ヨコハマ3R夢プランによる生ゴミの資源化や再生可能エネルギーの推進、シェアリングエコノミーの社会実装をはじめ、横浜ブルーカーボンにも積極的に取り組み、CO2削減、水質改善、生物多様性の推進を進めてきました。

持続可能な環境の構築に向けて、テクノロジーの導入を積極的に進めて、2050年カーボンゼロ社会の実現を目指します。そのためには、環境センシングを行うとともに各種統計データを用いて、都市の環境の最新状況をデータで定量的に把握可能にすることで、持続可能な都市を作っていくための課題の認識を合わせて、協力して目標達成に向かえるように取り組みます。

横浜が誇る、環境、ブランド、人的資産、これらの資産をうまく活用しながら、さらに発展させていくことで、都市の持続可能性を高めていきます。

1.3.新しい「横浜らしさ」を見出し、再発展させていきます

グローバル化の波が押し寄せ、日本国内のみならず諸外国にまで目を向けたときに横浜のアイデンティティはなんなのか、あらためて考える必要に迫られています。 都心臨海部の特徴的な都市景観、関内・外を中心に進められてきた文化施策、市民に愛されているプロスポーツチーム、こうした要素に先端技術を掛け合わせることで、横浜全体をショーケース化、「技術駆動都市ヨコハマ2030」として国内外に発信していきます。

1.3.1.先端企業との共創により先端技術をいち早く導入します

先端的な取組を進める企業との共創により、市民がテクノロジーの有用性や可能性を感じられる機会を多く作ります。そうした取組の中から効果が見込める技術についてはいち早く社会実装して実用化していきます。

1.3.2.テクノロジーの価値をデザインの力で最大化します

テクノロジーを実社会で活用しようと考えたときに、テクノロジー単体で人々に受け入れられることはありえません。テクノロジーの利活用の場面を見いだし、それが十分に機能するように、まちの環境に溶け込むように、そして、人々に使いやすいように、テクノロジーがその真価を発揮するためには適切なデザインが必要です。

「テクノロジー × デザイン」をキーワードに、企業や教育機関などとも連携し、デザインの力を上手に使いながらテクノロジーの社会実装を進めます。

1.3.3.市民が誇れる横浜ブランドを形成し発信していきます

これまでの横浜市民の誇りと横浜ブランドの源は、ミナトとしての歴史に何よりも重きをおいてきた、長年の都市デザインによる成果です。 このような先人の築いてきた都市の上で活躍する「多彩な人材」こそが、これからの時代の市民の誇りと横浜ブランドの源となります。横浜という都市がVUCAの時代の荒波を乗り越えるためにも、370万人の人材の質と量は、最大の資産となります。

テクノロジーの力も最大限発揮しながら、市民一人ひとりが、個の能力を活かして活躍できるエコシステムを創り出します。 また、リモートワーク、フレキシブルワークの社会普及により、「どこにでも住める」ようになった「ニューノーマル」のいまだからこそ、SNSをはじめとするソーシャルメディアや、3次元仮想空間(メタバース)等のコラボレーションツールを活用し、「なぜそこに住みたいと思うのか」という一人ひとりの意識にアプローチしていきます。

■アクション

  • (1)情報のバリアフリー・ユニバーサルデザイン
  • (2)地域医療のイノベーション促進
  • (3)一人暮らし高齢者の支援
  • (4)フレキシブルな働き方の普及による市民のワークライフバランスの改善
  • (5)地域コミュニティをエンパワーメント(元気付け・勇気づけ)
  • (6)データや科学に基づいた都市マネジメント
  • (7)先端技術企業との共創推進
  • (8)デザインの力でテクノロジーを社会実装
  • (9)マッチングやシェアリングの手法を用いて持続的に発展可能な都市を形成
  • (10)市民が誇れる「技術駆動都市ヨコハマ2030」ブランドの形成
  • (11)リアルタイム環境センシング・モニタリングの持続的な仕組みの実現

2.デジタル技術で企業活動を支援します

市民の生活の質のうち、経済面に注目してみましょう。経済的な豊かさ・質を表す指標としては「人口一人当たりの経済規模(市内総生産と市民総所得)」がよく使われますが、横浜市は政令指定都市の中ではいずれもランキングが下位の「Bクラス」にとどまっている現状があります。大阪市や名古屋市といった強豪がひしめく「Aクラス」の仲間入りをするためには色々な課題がありますが、そのうちの一つが「市内の地域産業の高付加価値化」といったものです。

また、インターネットの登場以降、地域の産業が世界のマーケットに直結、国境を越えてビジネスを展開するための敷居が格段に下がりました。さらに、この10年ではスマートフォンを舞台とするマーケットが爆発的に拡大中です。そして、クラウドのコモディティ化やAI技術の発展によってデータを中心としたマーケットも拡大しています。

新型コロナ禍は、従前には10〜20年くらいかかると見られていた、これらの変化を一気に手繰り寄せました。VUCAに強い企業と、そうではない企業との間で、明暗がはっきり分かれていくといった、いわゆる「K字経済」とよばれる状況が進みつつあります。その中で、デジタル財(デジタルサービスやデジタルコンテンツ)を生産・提供する企業や、これらのデジタル財を巧みに活用することで、今般のような社会や環境の大きな変化にも素早く、柔軟に対応できる能力(変化対応力・ダイナミックケイパビリティ)を獲得している企業は、新型コロナ禍の影響で産業全体の消費や生産が落ち込む(「8割経済」)中でも過去最高業績をあげたりと、「明」の側にたてることが明らかになっています。

そこで、マーケットの激変も含めた変化が常態化するVUCAの時代に、横浜という都市の存在感を示しつつ、経済面で「Aクラス」入りするために、市内に先端デジタル技術企業を牽引役とする高付加価値な産業を育成していきます。

具体的には、アイコン的企業の誘致、または、スタートアップ支援、既存の業態に対するデジタル技術を応用したイノベーションの促進、そして、それらを支えるデータ基盤の整備を行います。

2.1.起業しやすいまち横浜を実現します

市内テクノロジー企業の情報を集約したデータベースを構築し国内外にアピール。優れた技術や製品、ソリューションを持つ企業のビジネスチャンスや求職者に対するマッチングの機会を拡大します。

また、講演会、セミナー、交流会等の情報も集約、先端技術分野の企業間交流の機会増加によりコミュニティの形成と代謝を促すとともに、金融機関やベンチャーキャピタルとのマッチングなど資金調達のチャンスも拡大します。

2.2.高付加価値な先端技術人材を呼び込みます

地域の中小企業にとって優秀な先端技術人材の確保は大きな課題となっています。やりがい、自由な働き方、職場環境、通勤環境、コミュニティ等、横浜で働くことの価値をあらゆる側面から見つめ直しアピールしていくとともに、多様な働き方を支援する制度を充実させます。

大学等研究機関、教育機関と連携し、優れた人材が地元で求職活動することを応援します。また、才能のある人材が起業する舞台として横浜を選んでもらえるように、スタートアップのためのインキュベーション制度を充実させます。

横浜市内には、横浜市の誘致政策などの成果として、みなとみらい21地区をはじめとして複数の大企業の研究開発拠点が整備されています。これらの拠点に集積している企業の研究所においては、多くの先端技術人材により日々新しい価値を生み出されていますが、引き続き、上記の取り組みを着実に積み重ねていくことで、他人がやらないことを進んでチャレンジするような、ユニークな人材を一人でも多く集めていきます。

2.3.地域のインフラとしてのデータ利活用環境を整備します

蛇口をひねれば水が出る、プラグを差し込めば電気が流れる、それらと同じように地域に関するデータがいつでも簡単に入手できる「データインフラ」をつくります。

これまでインフラといえば、上下水道や電気はライフラインとして人々の暮らしを守り、道路や鉄道などの公共交通網は人や物のダイナミックな移動を可能として経済活動を支えてきました。

21世紀に入るとブロードバンド、さらに、モバイルブロードバンドの本格的な普及が進み高度な情報通信社会が形成されました。現在ではスマートフォンや各種センサーデバイスから日々大量のデータがインターネットに送信されるようになり、こうしたデータからは地球の気候変動から、人、物、金の動きといった社会の様子まで捉えることが可能です。

企業が上手にデータを活用すれば、製品やサービスに新たな付加価値を与えることができ、製品やサービスの質が向上すれば利用者である市民の生活の質は向上するでしょう。また、公共分野においてはデータを活用することで、今よりも効率的な行政運営が可能となり、市民一人一人に寄り添った行政サービスを提供できるようになります。

2.3.1.データインフラの姿

現代社会において、データは資産として上手に運用することで、さまざまな価値を生み出す源泉となると考えられています。今後も、インターネットを飛び交うデータの種類や量は爆発的に増加していくことが予想されるため、そのようなデータを効率よく収集管理し、他者と共有しながら、必要に応じて組み合わせ加工して利用するといった機会が増えていきます。

そうした状況下では、データはもはやデータサイエンティストやエンジニアだけのものではありません。できるだけ多くの人がデータを操作できるための環境が必要となります。いわゆる、データインフラです。

データインフラを構成するのは、統計データや地理空間情報からセンサー由来のダイナミックなデータまで、多様なデータが主体となり、それらを保存するためのストレージ、あらゆる方法でデータを入出力するためのインタフェース、データを管理検索するためのソフトウェア、データインフラを利用するための認証機能、セキュリティを担保し個人情報を保護するためアクセス権を管理する機能、基本的かつ汎用的なデータ加工処理を行うソフトウェア群などです。

このデータインフラの上には、さまざまなアプリケーションを乗せることができます。市民向けの行政サービス、政策を検討するためのデータ分析可視化アプリ、データを学習することで高度な処理を可能とするAIも構築することができます。

そして、このデータインフラは市役所の業務全般で活用される他、市民や企業にも開放されます。まさに、インフラとして社会を駆動する原動力となります。

2.3.2.「デジタルツインYOKOHAMA」の実現を目指して

上記のデータインフラの、具体的な姿の一つが「デジタルツイン」です。「デジタルツイン」とは、物理世界の空間および、空間内の事物や事象を、デジタルモデリング&IoTセンシングにより、サイバー(デジタル)空間上に再現・転記した「電子の双子」のことです。「デジタルツイン」を用いると、従来よりも精密かつ高度な空間シミュレーションが可能となります。さらに、VR/ARと組み合わせることで、空間シミュレーション結果が専門知識をもたない市民でも、リアルに自分ごととして体験できるようになります。

近年、この「デジタルツイン」を地域の都市計画やまちづくり、地域活性化等に活用するといった取り組みが、国内外で広がりつつあります。日本においても、政府によって国内諸都市の「デジタルツイン」を構築・運営するプロジェクト(“project PLATEU(プラトー)“)が推進されています。

横浜でもPLATEUで構築された「デジタルツイン」の活用等により、「デジタルツインYOKOHAMA」の実現を目指していきます。下図の通り、継続した運営が可能となるように、「まちづくりシミュレーション」と「VR/ARオンラインイベント」の2つの用途における、具体的なビジネスが推進されていく中で、「デジタルツインYOKOHAMA」の構築を段階的に行ないつつ、継続的に運営していきます。

「デジタルツインYOKOHAMA」の構築と運営のイメージ図

「デジタルツインYOKOHAMA」の構築と運営のイメージ図

■アクション

  • (12)市内テクノロジー企業のためのデータベース構築、情報共有やマッチング
  • (13)大学や研究機関と連携、起業支援など優れた人材の誘致
  • (14)市内企業のデジタル活用の拡大
  • (15)データ利活用のためのインフラの整備
  • (16)具体的なビジネスや事業を通じた「デジタルツインYOKOHAMA」の段階的な構築

3.市民に寄り添う行政に転換していきます

より効果的に政策を立案するため、また、事業を企画したり、事業の効果を検証したりするためにデータ分析手法やデジタル技術を活用します。共創型による行政運営、市民に寄り添った行政運営を推進していきます。

2020年初頭におけるCOVID-19の世界中への急拡大や、それに伴う社会・経済活動の停滞をうけ、海外先進国・地域の政府・行政機関では、個人や企業等組織に対する給付金や補助金を、手持ちのデータベースを自発的に活用する「プッシュ型」のアプローチで素早く給付しているケースが多く見られました。他方、国内では法制度をデジタル社会に適合させるための改革を含む、行政サービスのデジタル化が半ばであったことから、COVID-19対策関連の給付金・補助金の給付事業においては、利用者にやさしいUI(ユーザーインタフェース)を備えたオンラインサービスが準備できずに、大多数が紙による申請となったり、オンライン申請をしても行政職員による審査は紙のみとなってしまったため、給付までに何ヶ月もかかってしまったりといった光景が各所で見られました。

このような「アナログジャパン」、ないしは「デジタル敗戦」ともいうべき事態に陥ることを二度と繰り返さないためにも、COVID-19終息後に次の大型パンデミックが到来するまでに、「プッシュ型」アプローチや完全ペーパーレス・オンラインの手続により、支援が必要な個人や企業等組織に速やかに、かつ感染リスクを抑える形で給付金・補助金をはじめとする公的支援を行き渡らせるような、海外先進国・地域と同様の「デジタル行政」を、段階的に実現していきます。

3.1.共創型=オープンイノベーションによる社会課題解決を図ります

全ての市民がデジタル技術とデータの恩恵をあまねく享受し、それらを容易かつ主体的に利活用することで、デジタル社会において、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展に資する活動に参画し、個々の能力を最大限に発揮することが可能となる環境を実現します。そのために、横浜市が掲げる「共創」の概念とその取り組みをさらに発展させ、課題の発見、解決策の立案、実施、改善の様々なプロセスにおいて、産官学民の共創による行政運営を推進します。

また、官民データ活用推進基本条例に基づき「市民の皆様との共有財」としてオープンライセンスのもと、行政手続等を通じて得られたデータを含む、様々な行政データを公開し、市民、企業、大学などの教育機関、シビックテックが持つ知見や技術を駆使して、これまで行政だけは難しかった課題の解決にもチャレンジしていきます。

そのためのプラットフォームとして、これまで行ってきた各区における地域との対話の場に加え、デジタル技術を使った対話の場なども活用し、データに基づく仮説と市民の感じる課題をマッチングする機会を積極的に設けるとともに、課題解決に向けた様々な取り組みを正しく評価できる仕組みを構築します。

3.2.手のひらの上に行政サービスを

生産年齢人口の減少により自治体職員も減少することが予想されています。

しかし、21世紀を生きる市民は、住む場所、働き方、家族構成、ライフステージなど、一人一人がおかれている状況は異なり、また、必要とする情報やサービスも異なること、さらに地球温暖化に伴う災害の激甚化などによって、自治体が対応すべき課題は増える一方です。 そうした多様なニーズに対して柔軟に対応するリソースを確保するために、デジタル技術を積極的に活用し、すべての手続きについて申請→バックヤード→認定等の処理までをend to endでオンライン化し、効率化を図ります。

日本では2021年現在、8割を超える人々がスマートフォンを利用し、さらにその多くがマイナンバーカードの電子証明書読み取りに対応するなどの環境が整っています。また、マイナンバーカードの普及率も30%を超え、カードに搭載された電子証明書を利用したオンライン上での本人確認や、本人同意のもとで取得した個人情報を情報連携させることが可能となっています。 こうした環境を上手に活用し、スマートフォンを利用したプッシュ型による情報提供、情報連携による「申請不要化」、行政サービスのアプリ化など、「申請を待つ行政」から「市民の手元へサービスを届ける行政」へのシフトを行っていきます。

また、こうした新機能やサービスの開発は行政だけで行うのではなく、民間事業者の知見を取り入れ、スマートホームなどIoT環境との連携を実現するなど、質の高いサービス開発を共創型で推進していきます。

3.3.情報システム調達を改革します

近年、技術の進歩や多様化にともない、行政の情報システムも複雑さを増しています。プロジェクトの開始から終了まですべてを事前に策定した計画通りに進めることは難しく、様々な外的・内的要因をうけ、状況は刻一刻と変化します。そうした変化に対して仕様を調整したり、時にはゴール設定すらも変更することも必要となるかもしれません。このような柔軟な体制と姿勢を持ってプロジェクトを遂行する必要があります。

さらに、これまでの行政の情報システムでは単に仕様書に記載されている機能要件を満たしていれば十分という考え方が一般的でした。しかし、そうした考え方にとどまらず、生産性の向上や効率化に確実に効果があるか、使い勝手は良いかなど、利用者にとって真に価値のあるシステムを構築することが求められるようになっています。

以上のような課題に取り組むためには、民間の情報システム開発プロジェクトで採用されている手法を行政の情報システムの開発プロジェクトにも取り入れて行く必要があります。

3.3.1.情報システム関連事業の評価フレームワークを構築します

事業の計画段階において、現状の課題、導入後に期待される効果、それに対してどのようなシステムが求められているのかなど、できるだけ具体的な指標を用い、改善見込みをKPIとして設定し事業を評価できるフレームワークを作成します。

3.3.2.アジャイル手法を採用します

現在の行政システムの開発プロジェクトでは、はじめに仕様書ありきで、そこから段階的に設計を行い、工程管理に従って開発を進めるウォーターフォール型とよばれる手法が採用されることが一般的です。それに対して、アジャイル型手法では開発工程において細かくテストと改善を繰り返しながら開発を進めて行きます。状況の変化や不測の事態に対して柔軟に対応したり、細かい改善を繰り返して質を高めて行くことに適した手法です。

行政システムの開発プロジェクトにおいても、アジャイル手法を積極的に採用し、事業の質を高めていきます。 また、そのために必要な調達方法を確立します。

3.3.3.オープンソースを積極的に採用していきます

情報システム開発プロジェクトの計画段階において、既存のオープンソースを採用することによって安全かつ効率的に開発が行えるかを検討します。さらに、プロジェクトを通じて生まれたプログラムは積極的にオープンソースとして公開するとともに、周辺自治体や民間企業、ボランティア組織等と連携してオープンソースプロジェクトを立ち上げ、持続的に機能改善や機能追加がなされていく状況を確立します。

3.4.行政にデジタルガバナンスを根付かせます

3.4.1.データのライフサイクルを意識したルール整備や標準化を進めていきます

あらゆる業務や市民向けサービスが次々とデジタル化されていく中、それらが連携して動作できることが求められるようになります。まるで、複数の器官が複雑に連携して動く人体のように、また、オーケストラで指揮者の指揮にあわせて、いくつものパートに別れた大人数の演奏者がひとつの交響曲を奏でるように、デジタルによるシステムやサービスも同様に複数のシステムが集まり更に大きな系となり、強調して動作できる必要があります。そのとき、データの役割は人体であれば血液であり、オーケストラであればスコアにたとえられます。

複数のシステム間が複雑に連携し、スムーズに動作するためには、その間をデータが滞りなく流れていく必要があるため、システムのアーキテクチャの中では、データの形式を含むデータの連係方法についてのルール(プロトコル)の標準化が重要となります。

市の業務では、市民からのデータの受け入れ、部署間でのデータのやりとり、国や他自治体とのデータのやり取りは頻繁に発生しています。デジタル化が進んだ先では、これらが、できるかぎり自動化されていることが理想的です。そのためには、データの入出力を担うシステムが一定のプロトコルを正しく実装できていることが必要となります。

このように、行政におけるデジタルガバナンスの根幹は、このプロトコルの整備とその遵守ということになります。

また、データやドキュメントの管理についても、アナログでの業務とは別の考え方が必要となります。データが生じて、処理が加えられ、別のところに送信され、また、利用される。その結果によって、また新たなデータ生じる、といったサイクルが生まれます。そうした過程が長く複雑になったとしても、そこに流れているデータの出所や変遷、誰(どのシステム)がなにを目的にどのような処理を加えたかは常に、正しく追えるようになっている必要があります。そうでないと、仮に間違いが発見されたとしても、その間違いがどこで生じたかの追跡や、データに対する信頼を評価することが非常に難しくなります。

こうした複雑なデータ管理を実現するためには、まず、一つ一つの業務において、そこで扱われるデータのライフサイクルを精査することが必要です。さらに、そのライフサイクルの中でデータが移動し変化していく過程で必要な記録を残し、確実にアーカイブしていくことも必要となります。

データを正しく作成し、利用する。そして、保存管理する。このサイクルを正しくガバナンスすることで、行政全般の信頼度を担保するものとなるのです。

3.4.2.研修プログラムを充実させます

市役所内でより良い行政サービスをデザインできる人材育成を行うための専門組織を設置します。行政サービスのデザインにあたっては、デジタル技術に関する知識だけでなく、法務や市民活動など様々な知識が必要とされることから、それらを「行政サービスデザインスキル標準」としてまとめ、大学や民間とも連携しながら実践力のある専門人材育成を行います。 デザイン思考、データサイエンス、プロジェクトマネジメントなど、職員向けに求められる幅広い研修プログラムを実施、高い専門的技術を学べる機会をつくります。また、外部のセミナーへの参加も推奨します。

3.4.3.民間との人事交流を活発にしていきます

デジタル技術分野に高い専門性を持つ民間企業との人事交流の機会を増やすことで、職員のレベルアップを図ります。

■アクション

  • (17)データや科学に基づいた政策立案や事業企画(EBPM※)の普及
  • (18)「ワンストップ」「ノンストップ」型行政をデジタル活用により実現・拡大
  • (19)必要とする情報や機能をすぐに利用できるパーソナライズ機能の実現
  • (20)共創型で質の高いサービス開発を徹底
  • (21)行政情報システムでサービスデザインを実施
  • (22)行政情報システム関連事業の評価フレームワークを構築
  • (23)アジャイル開発手法を導入
  • (24)オープンソースのカルチャーを普及(「車輪の再発明」をやめる)
  • (25)デジタル技術の進歩をリードできる職員を育成
  • (26)兼業副業人材のネットワーキング・活用促進
  • (27)各局の精鋭が集まるクロスファンクショナルなバーチャル組織による横断的なマーケティング機能を実現
  • (28)民間との人事交流の活性化

※EBPM; Evidence Based Policy Making…確かな根拠に基づいた政策立案

2030年に向けて航海中

これらのアクションについて、市内で可能なものから一つずつ実施されるように、Code for YOKOHAMAは市の議員や職員、市内の企業、NPO、研究者、学生、個人といった様々な組織や人々に働きかけつつ進めています。

初版公開(2017.7.15)以降の横浜市の4年間の変化

2017年

2018年

2019年

2020年

2021年

Code for YOKOHAMAの近年活動実績

ゴールは2030年。技術駆動都市を目指し、VUCAの荒波が押し寄せる中、横浜は今まさに航海中です。

Code for YOKOHAMA一同